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T-Party:07

「…ねえっ」
 一番近く…といっても数メートルの向こう、何人もの向こうを歩いていた男に片手を挙げてみせながら。
「トイレに行ってきても、良い?」
 ゆっくりと歩き廻る靴音、こそこそとして途切れがちな会話、息遣いと姿勢を変える際の衣擦れの音。完全な無音でも無かったが、かなり静かな部屋の中に素っ頓狂で当然な「質問」はものすごく響いて聞こえた。
 そんなサーシャの横で、南部が溜息吐きながら額押さえて。真田が遺伝子について考えていたのも、いつかと同じだったが。
「ああ…ちょっと、待て…」
 見た目だけはなかなか綺麗な、しかしあまりにも堂々とそんな事を訊いてくる「女の子」に、十二分に途惑った男は。良しとも駄目だとも即答出来ず、リーダー格にお伺いを立てるように振り返ってしまった。

 腕時計を眺めながら、目立たないように姿勢を変えた。立ち上がるまでの、コンマ数秒の差を作る為に。
「そろそろ…だな」
「お嬢さん、交ざって来ないでしょうねえ?」
「無理だろう?向こうには、古代が居るんだから」
「そう、願いますよ。俺は正直、蓉子さんだけで手一杯ですから」

  ◇ ◇ ◇ ◇

 人数は居ても、相手が素人だった為に、片付くのは非常に早かった。
 逆を言えば、数年前の占領下の記憶の為に、人質とされていた者たちの判断力と行動力が素人の範疇から外れていた。外側から扉の開かれるに虚を突かれた一瞬を、しっかりと見逃さなかったからだ。
 銃も撃たせなければ誰も怪我をしない、銃口がこちらに無ければ中(あた)らない。
 それを知っていて人数居れば、取り押さえる事はそれほど難しくは無い。第一線から離れてはいても、未だ軍人である参謀職も数人交ざっていたのだから、尚更に。
 …という事で。
 銃を携えた相手にも怯まなかった者は、取り押さえようと向かって行き。そこまでの勇気の無かった者も、身近に居た女性を護ろうという程度には動き。結果、発砲の無いまま事が片付いたのだった。

 手にしていた銃を、近くに居た誰かに投げ渡しておいて守は、真田の方に寄って来た。
「…何か、やったな?」
「何が、だ?」
「幾ら連中が『素人の集団』にしても、片付くのが早過ぎる」
 相手が素人だろうとは既に知れていた、軍や警察上がりの訓練された連中で無いと言う事は。だから、突入した場合にそれほどの手間と被害を出さずに済むだろうとは、想像出来ていた。
「ああ…伝言頼んだから、だろう。長官たちに」
 最後の連絡に、突入の時間を知らせてきた。それを、近くに居た誰かに耳打ちをしただけだ。離れた位置に居た長官にまで伝えてくれ、と。
 それが長官とも参謀たちとも関係無く、何処まで拡がっていったか…は知った事では無い。
「別に…長官に伝えろとは、言わなかったはずだが?」
「俺と南部だけに働かせるつもりだったのか?お前は?」
 人質となっている中に、軍関係者は他に長官と参謀職数人が居たのだ。一般人のそれと同様に、黙って座って見ている法は無いだろう。だから伝えた訳だ、動けという意味を込めて。
 それが結果的に、人質たちにもこの状況の終わりを教えて、心構えさせたという事だ。
「…狙ったな?」
「さあ?どうだろうな」

「…何で、貴女が交ざってるんですよ?」
 言われたからと素直に返さなければ良かった、とは後から…今更思う事。
「銃が有るんだから、利用しない手は無いでしょ?」
息子の追及にもあっさりと答えながら、バッグに銃を仕舞い込んでいる蓉子である。
 その瞬間に、一番近くに居た男に銃口向けて。近くに居た誰かの飛び掛かる暇を与えるという事で、しっかり関わってくれていた。
「止めて下さいよ~。親父さまに怒られるの、俺なんですよ~っ?」
「知らないわ、そんな事」

「ね~?もう、片付いたの?」
 見ればおおよそ分かる事を、暢気な調子で口にしながらサーシャが古代に近付いて来た。
「…って、出てろって言っただろっ?」
 片付いたと言っても、まだ連中はここに居る。銃を取り上げて押さえているとは言え、連行して終わった訳でも無い。全く、危険でなくなったとは言い切れないのだから。
「ちゃんと廊下(そと)で待ってたんだから、良いじゃない」
 あの理由で廊下に出たのは、真田と南部が関わって欲しくなくて追い出したというのが一つ。見張りとしてついて行くだろう1人でも2人でも先に減らしたかったというのが、もう一つ。
「大体ね?叔父さま。あのまま出てっても、雪さんとかに訊かれるのよ?訊かれても、答えられないじゃない」
 内部(なか)ではどうなったのか、と。雪には古代と長官の事を、晶子にはやはり長官の事を、山名には真田の事を訊かれるはずだ。無事なのか、と。結果を見ないで出て行っても、そのどれにも答えられない。
「だったら、皆と一緒に出ようかなって」
 ああ言えば、こう言う。そして、姪の口にさっぱり勝てない古代である。

  ◇ ◇ ◇ ◇

 騒がしさも、一際。
 先に押さえられた連中が、警察に引き渡されて運ばれていって。それから人質とされていた者たちが、思い出したかのようにようやく。
 驚く事に、騒動の早々追い払われたはずのクローク係が何処に居たのか、片付いたと見るやあっという間に戻って来て。何も無かったかのようにその仕事を再開していた。
「日付、変わってないんだよな」
 腕時計に時刻を確認したのは、太田だった。今から向かえば、仕事に間に合わない時刻でも無い。
「って、休みになったんじゃなかったっけ?」
「休める訳無いだろ。交代(かわ)ってもらっただけだよ、一勤の奴と」
 連絡した時に本当に守が、携帯引っ手繰るように口を挟んでくれたが、当然にただ休む訳にはいかなかった。それほどの余剰人員は居ないのだから。
「そう言や、お前は?」
「僕?え~と…どうなってるんだろう?」
 問われて、相原が考え込む。
 休めば良いと守とサーシャの両方に言われはしたが、前もって届は出していない。追い出されてから後が、仕事だったと言えば仕事していたような気もするが、それを理由に休めそうな気もしない。
「多分…普通に、仕事?」
「多分って、何なんだよ?」

「お祖父さまっ」
 ほぼ最後になって出て来た長官の元に2人ともが駆け寄っていったが、雪よりは晶子の方がほんの少しだけ早く声を掛ける事になった。
 それぞれ服装の変わっている事には即座に気付いた藤堂だったが、その事には特に触れず、心配掛けたとそれだけをまず謝して。それから、もう良いから早く帰りなさい…と今までの時間を労(ねぎら)った。
 一方、こちらも仕える者に駆け寄った秘書である。当然のような顔をして、アナライザーもついて来たが。
「真田サ~ン」
「お疲れ様でした、局長。ご無事で何よりです」
しかし、真田は藤堂のように秘書に服装の変化に全く気付かないで。結果、まず返した言葉がそれと大差無い事に。
 そしてまた同じように、先に帰って良いとも言ったのだが。
「では、帰宅はどうなさるんです?」
「別に…古代が居るからな」
「とんでもない。古代参謀に、そのような手を煩わせる訳には参りません」
そう言って、あっさりとその言葉を否定する。
「アナライザー。局長を、私の車までお連れして」
「ハイハ~イ」
 相変わらず、秘書に勝てない科学局長である。

「叔父さま。そう言えば、弥生は?」
「連れて来るかっ!」
 こんな状況のこんな場所だ、当たり前である。ニュースに知って、弥生を抱えて飛び出して、雪の両親の所に預けて来たに決まっている。
「え~?」
「え~、じゃないっ」
「じゃあ、一緒に乗ってって良い?弥生、迎えに行くでしょ?」
 そこまで言ったところで、古代が何か言う前にサーシャは襟首…は捕まえにくかった為か、髪を引っ張られた。
「明日にしろ、明日にっ」
引っ張ったのは勿論、守だ。
 娘夫婦である雪たちならともかく、サーシャの訪ねるにはそろそろ非常識な時刻になっている。ついでに、その場合「誰が迎えに行くと思ってるんだ」という事もあって、引き止めた訳だ。
「だって、もう5日も見てない~っ」
「5日が6日になったところで、大差無いっ。お前じゃないからな」

「こんな事なら、来るんじゃなかったわね」
「え~、もう、そうですよね。親父さまの来られなくなった段階で、そう思ってくれていれば楽でしたよ。俺も」
 蓉子の言葉に、素直に思ったままを返した南部だ。
「あら、可愛くないわね。こんな美人と一緒するのに、何の不満があるって言うのよ?」
「普通…自分で言いませんよ、そんな事」
 我が母親である、性格も物言いも既に嫌と言うほどご存知。ご存知だが、話していて疲れるのも実際。何でこんな女(ひと)と親子やってるのか…と、悩むところでもある。
 しかし、親子なだけに縁の簡単に切れる訳でも無い。
「も~、帰りますよ。とっとと」

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