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T-Party:03

 良くも悪くも、一般人までもが銃を見慣れている時代だった。
 即座にその意味するところを認めて、女性たちからさえ派手な悲鳴は起こらなかった。ただ、ざわめくだけ。当たり前だろう反応も、周りから目立てば銃口をこちらに向けさせるのだと、良く知っていたから。
 …数年前の占領下の都市(まち)を、まだ誰も忘れてはいなかった。

 先程までの、賑やかさと人口密度は何処へやら。
 目に見える人数から、せいぜい多くても10数人というところだろう。その連中にこの場に居た全員は、人質としては多過ぎる。そんな事は連中も最初から考えていたらしく、早々に不要な──人質としての利用価値の薄い者たちを追い払いに掛かったからだ。
 とは言っても、まだ全員がこの場を去ってはいなかった。それだけの人数が、ここに居たという事だ。
 残れと言われてしまった者は、自分の肩書きや立場に舌打ちしたり途惑ったりしながらも、大人しくそれに従い。去れと言われた者は、明らかに安堵の表情を見せながらも、しかし静かに。
 どちらも無意味に不興を買って、気紛れにその銃口を向けられてしまわないように、と。

  ◇ ◇ ◇ ◇

「触らないで頂戴」
 それほど大きな声では無かったのだが、誰もがなるべく静かに動いている部屋の中では、とても良く響いた。誰もが足を止め、手を止めてそちらを眺めてしまったほどには、良く。
「…って、蓉子さんっ」
 慌てたのは、その息子である。
 後ろから、その腕を捕まえて強く引いた。引かれて蓉子が自然と半歩下がって、南部の方を振り返るような形に。
「銃持ってる相手に、無駄に逆らうんじゃありませんよっ」
「何だろうと、知りもしない男に身体触られたくなんて無いわよ」
 人質として残すとした中にも、軍関係者は含まれていた。こんな場なのだからまず無いとは思われたが、銃など持ったまま居られては乱入した側には非常に迷惑だ。
 その為のボディチェックを、きっぱり拒否した。そういう事だ。
「まあ…それは、分からなくは無いですが…」
「でしょう?なら、貴方は黙ってなさい」
 引き止めた側が、いつの間にか諾々と言い負かされている。すっかりポジションの入れ替わってしまっている2人を、当の乱入者たちも呆れたように見てしまっていた。

「大体、この格好の何処に、何を、どう隠せるって言うのかしらね」
 このセリフは既に、息子に宛てたものでは無かった。最前、触れようとしていた男の方に向き直っていて、手に自身を指し示していた。
 多少の装飾はあったが、基本的には実にシンプルでスタンダードなデザイン。生地はてれん…と、勝手に身体のラインに沿って落ちている。
 これでは、確かに。この何処かに何かを隠そうとしていたところで、表面にその形の知れてしまうが当然。
「調べるというなら、私より『これ』でしょう?」
「蓉子さんっ!」
 手持ちの小さなバッグを投げ付けるようにも相手に押し付けたところを、また強く引く。今度は半歩などでは無く、その勢いで引いた側とその位置の入れ替わってしまうほどに。
「どうして…そう怖いもの知らずなんですかっ、貴女はっ?」
「性格、ね」
 息子の、低いがきつい語調の問いにも、さらっと答えてしまう母親だった。

 目の前の、自分たちを全く無視したようなやり取りに、いっそ呆れながら。それでも、確かにこれはまだ調べていなかったとばかり、押し付けられたバッグの口を思い出したように開く。
 見た目からも、大したものは入っていないだろうとは簡単に想像出来た。そしてその通り、たった一目くれただけでも「何も無い」と知れて。
 良し…と小さく呟いてしまえば、この気の強そうな女は。位置として男の陰に居ながらも、至極当たり前のような顔をして堂々と、寄越せとばかりその手を差し出して。

  ◇ ◇ ◇ ◇

「…っの、馬鹿娘っ!」
 不機嫌が顔だけでは無く、その歩幅にも思いっきり表れている守である。
 ただ、その無駄な上背でそんな歩き方をされると、とんでもなく速い。もう少し楽に追い掛ける事の出来たのは、そこそこ高身長な相原だけだった。義妹と秘書に至っては、普段よりも高くて細いヒールと、持ち上げないではまとわり付いて邪魔なだけの裾のおかげで、一向に遅れていくばかりだ。
「サーシャだったら、真田さんが残ってるんだから大丈夫ですってば」
「当たり前だっ」
 相原の言葉にわずかに振り返って一瞥くれたが、速度と方向は変わらないまま。また不機嫌な追い掛けっこの続くだけ。

 戸籍上は、未だに「真田澪」のまま。
 司令本部の職員名簿にも、そのままの名で登録されているし。当人も問われれば、真田…と名乗る。また問われれば否定はしないが、自分から古代…と名乗った事はほぼ無い。
 軍内、それも司令本部と旧ヤマト乗員の中でこそ、それがサーシャという名で「誰と誰、の娘」だかはっきり知れているが、それより外にはそれほど知れていない。
 ましてや、軍の外にまでは。
「よりによって、こんな事態(とき)に自分でバラすなっ!あ…の、馬鹿娘っっ!」
 どうやら、思考がぐるりと一周したらしい。さっきと、また同じセリフを言っている。
「…あれ、サーシャがバラした事になるんですかねえ」
 サーシャはただ、守の腕を捕まえたまま「お父さま」と見上げるようにして呟いただけ。それを聞き付けた側が、親子だと悟っただけ、だ。
「どうでも、それで残されてりゃ一緒だろうがっ!」
 いきなり立ち止まって振り返った守が、相原を締め上げている間に、ようやく雪と晶子が追い着いた。
「お義兄さんっ!相原君に、八つ当たりしてる場合じゃないでしょうっ?」
 雪の真っ当で、意外に冷静なセリフの隙に。晶子は旦那さまを、守からしっかり取り返した。

「この後、どうするんです?」
 雪の問うたには、理由があった。
 その頂点であるから、長官は中に残された。全員では無いながら数人の参謀職も出席していて、守を除いてはこれまた残された。状況の最初から承知していて、今動けるのは…守だけだったのだ。
 一つ、息を吐く。それだけで、随分と落ち着く思考。
「相原、携帯寄越せ」
 こういう場にも、相原なら携帯くらい持って来ていると信じて疑わない守だったが。それに対して、雪も晶子も驚かず口も挟まない辺り…守だけの思い込みでは無いようだ。

  ◇ ◇ ◇ ◇

 返されたバッグを、蓉子よりも先に引っ手繰(たく)るように受け取ったのは、南部の方だった。本来の持ち主の、何か言おうとするのに構わず。その場から出来るだけ早く離れる事を、その肩に置いた両手に促しながら。
「俺の胃に、穴開けるつもりですか。貴女はっ?」
「…そんなに、か弱い性格に育てた憶えは無いわよ?」
「貴女に『育てられた』記憶は、殆ど在りませんよっ!」
 最初から最後まで、何だかずっと騒々しい。ある意味、ものすごくマイペースな2人のやり取りに…つい、呆れて見送ってしまった連中だった。

 そんな様子を呆れた訳では無く、感心しながら見ていたのは真田だった。
「しっかり居残ったな?」
「当たり前、ですよ」
 床に座り込んでいた真田に答えながら、南部もその辺りに座り込んだ。
「蓉子さん1人を置いとくと、何やってくれるか知れませんし」
「母親(ひと)を、何だと思ってるのよ」
 ここに辿り着く前に、自分の肩越しに取り返しておいたバッグで息子の頭を一つ叩(はた)いておいてから、蓉子もその場に腰を下ろした。
 別に、座り込まねばならぬほど疲れてもいないし、好き好んで服を汚したくもない。しかし、向こうに行って座っていろと命ぜられているのだ。いつまでも無駄に立ったままでいて、銃口向けられても有難くは無い。
「まあ…どう転ぶにしても助かる、戦闘士官は追い出されてるからな」
 守のとっとと追い払われたのも、その理由だ。逆を言えば、数人の参謀職の中に戦闘士官上がりは、守の他には居なかったという事でもあるが。
「やれば戦闘士官並みに動ける人が、何言ってるんですよ」
「それを、現役の戦闘士官に言われたくないんだがな」
 相原の放り出された理由の方は、簡単だ。制服だったから軍の人間だとは一目で知れるし、年齢でさほどの地位に居ないだろうとも思われるからだろう。奥さまとの結婚で名の知れたのも、こういう連中にまで知れるほどでは無かったという事だ。
「…で。何か、考えてます?」
「そういうお前は、何か持ってるんじゃないのか?」

  ◇ ◇ ◇ ◇

「2、3台持ってろよっ、お前はっ!」
 さっきも締め上げ喰らったばかりで、同じ2度目をまた易々喰らうほど間抜けてはいない。襟元掴まれそうになったのを、ギリギリに払い落としておいて。
「普通は、1台有れば充分ですっ!」
ついでに、しっかり負けずに言い返す。
 こういう事の普通に出来てしまう辺り、相原も伊達に実戦生き残っていないし、喧嘩慣れもしていた。それが腕力だの勝率に現れずに、逃げ足だとか回避率に出てくる辺りもまた、相原だったが。
「…相原君も、追い出されて正解だったわね」
 と、人質取って立てこもった連中の身の安全と犯行成功率の為に、雪が呟いた。
「そう…なんですか?」
「キレるまでに時間が掛かるのよ、相原君は」
 旦那さまの本性知らない…というより、実戦くらいでしか出てこない本性など知る機会の無かった晶子に、幾度かの航海に気付く事の出来ていた雪の暴露である。

 守の思っていた通り、しっかりと携帯も持ち込んでいた相原だったが。現在(いま)は持っていないと答えた為の、最前のやり取りだった。
「大体、通信手段残してきて。何で、文句言われなきゃならないんですかっ?」
 そう。
 人質として残されてしまうという事は、外部と遮断されてしまうという事。それが分かっていたから、一番近くに居たサーシャに押し付けるようにして渡してきた。
 そのサーシャが、取り上げられてしまわないように、上手く隠し続けてくれるかどうか…は、また別の問題だ。
「誰も、その事に文句言ってないだろうがっ」
 相原がサーシャに携帯を渡してきた事には、確かに守は全く文句など言っていない。守の噛み付いているのは、その携帯にこの場からどうやって連絡するんだよ…の一点。
 だから、最前の「2、3台持ってろ」などという言葉が出てきた訳だ。
「お祖父さまは、公用車でこちらに来られたんですよね?」
 上司と旦那さまの口論なんだか、喧嘩なんだか。何だか見た事あるわね…とばかりに、さっぱり動じなくなってしまっている晶子は、それをそのままにしておいて。雪を振り返って、そんな事を訊いた。
「ええ、そうよ?」
 長官がその肩書きで出席するのなら、それに付き添う雪の立場は秘書だ。仕事としてならば、公用車の使用は当然。
「でしたら、参謀」
それを雪の口から確認した晶子は、守の方に改めて向き直って。
「お祖父さまの公用車(くるま)に、車載電話が在るはずです」
「何でそれを、参謀が忘れてるんですかっ!?」
 秘書の言葉に今更思い出したように、ぽん…と手を打ったりしている守の様子に、相原が思いっきり突っ込んでいた。
「…参謀もそれほど出られませんし、殆ど公用車使われないんですよね」
「って、真田さんと大差無いんじゃ…」
 奥さまの注釈に、つい眉間押さえた旦那さまである。

  ◇ ◇ ◇ ◇

「身体検査されなくて、良かったわ」
 とっとっと…と早足にやって来たサーシャはそんな事を言いながら、真田の横にぺたんと座り込んだ。
 蓉子がさっき散々悪態吐いた所為なのか、実際に隠すところなど無いだろうと判断したのか。どう見ても男ばかりの連中は、どうやら女性に直接触れる事は控えるようにしたらしい。
「触られるのは、やっぱり嫌か?」
「別に、触られても良いけど~。減るもんじゃないし」
 単純に、娘の言葉から適当に言葉継いだような義父の平坦な語調に、娘の方も実にあっさりと答えた。
「…お嬢さん」
何か違う。そういう南部の呟きなど、さっぱり聞こえていないだろう父娘である。
「でも、相原さんの携帯取られるのは嫌だったのよね」
 と、サーシャはドレスの胸から手を入れて…しばらく、携帯を一つ引っ張り出した。すぐ隣に真田、真ん前に南部の居る事など、全くお構い無しに。
「何処に仕舞ってるんですかっ」
 大声出して注目引く訳には行かないので、しっかりと小声ではあったが、その場所に突っ込みを入れておく事は忘れない南部である。
「だって、他に何処に隠すのよ~?バッグだとチェックされるし…スカートめくって、パンツの中とか?」
「お嬢さん…恥じらいって言葉、何処に置き忘れてきました?」
 至近のこんなやり取りに、やっぱり古代の娘だよな…などと暢気に思った真田だ。自分が育てたという事などは、意識的に失念をしているらしい。

「ああ…仕舞う前に、ちょっと貸して下さいな」
 一旦調べられたのだから、この後しばらくは大丈夫だろう…と。預けられた携帯をバッグの中に仕舞い込もうとしたら、そんな言葉が横から。
「何する訳?」
 言われてサーシャは、素直に南部の手の上に携帯を置いた。
「携帯ですよ?連絡するに決まってるじゃないですか」
「…何処に、なのよ?」
 自分の言葉の途中で、既に開いて操作始めていた南部だ。サーシャの問いには答えないままで、こそこそと文字を打ち続けていた。

  ◇ ◇ ◇ ◇

 辺りを見廻しながら歩いていた山名は、捜していた顔をようやくに見付けた。
「古代参謀」
少しばかり離れたところから、そう呼ばわりながら近寄っていった。
「科学局の方には、私から連絡致しました。機器の手配も致しましたので、間も無くこちらに届くと思われます」
「手間、省けるな」
 目の前までに来てからの報告に、守が苦笑しながら答えた。

 雪から──長官秘書の口から、その奇禍に遭ったは連絡させた。雪がどう言ったかは知らないが、おそらくは警備部の連中が大量にこちらに向かっている最中だろう。それは、それで良い。
 相原が、サーシャに携帯押し付けてきたとは言え、それだけで内部の様子の全てが知れる訳でも無いだろう。
そういう為の機材の、しかも精密さを求めるとすれば科学局かな…と考えてもいたところに、山名の手回しの良さだ。
 それはもう、渡りに船。見事過ぎて、苦笑するしかないだろう。
「…って、何処から連絡入れたんだ?」
 真田が公用車で無い事は、あの直前の会話に知れていた。つまり、車載電話は無い。
「私の車でしたから、こういうものを置いておりまして」
 そう言った山名の手の中に、携帯。その事にまた、守は苦笑する。
「車に、か?盗られるぞ?」
「電話番号の100や200、暗記出来ましてよ?」
 この中に、流用されて困るようなデータなど最初から入っていない。だからこそ、放置して平気だった。それを言って、山名も笑ってみせた。

 相原を呼び付けて、科学局から持ち込まれる機器の使えるかどうかを、守が問うていた。雪は公用車の中から、司令本部とのやり取りに追われていて。晶子は、それをフォローする為に動いていた。
 一渡り、この場を見渡してから山名が呟いた。
「…南部さんは?いらっしゃらないようですが」
 守については、大いにその肩書きの所為もあったが。山名がここに居る4人を見知っているのは、真田の研究室(ところ)にも顔を出す事があるからだった。その理由でなら、当然に南部だって知っている訳だ。
「そう言や、居ませんよね」
 今頃そんな事を言ってしまう相原も相原だが、薄情にも気付かなかったのは4人とも、だ。
「…って、内部(なか)か?」
 南部だけは「制服」では無かった。「南部」の総領が軍に所属(い)るというのは、そこそこ知れているはずだが、守も近くに見ていたように「南部の総領」の顔はろくに知れていないようで。
 それならば、残ったところで大して警戒はされない…はずだ。
「でも、南部も追い出される側にいたはず、ですよ?」
 というより、誰と誰は残れ…と選り出された中に居なかったはずだった。
「…の野郎、何かやりやがったな」

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