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T-Party:01

 現代(いま)では、そう滅多に来るような事も無いのだが。ごくごくたまに在る郵便物の管理も、秘書の仕事の一つである。
 まあ…場所が司令本部(ばしょ)なだけに、秘書の手に渡る──それぞれの執務室に届けられる以前に爆発物などのチェックは徹底的に為されている訳だが。
 まずは、表書きで分ける。明らかに「肩書き」に送られているものと、「個人」宛てのものとを。
 肩書きに宛てられたものは開封、すぐにそのまま読めるように開いてクリップボードに挟んでおく。個人に宛てられたものは、開封する事無くそのままだ。
「…要らねえよ、こんなモノ」
 机に片肘突いて、そのままの頬杖。表情から声まで、本当に面白く無さそうにクリップボードを眺めている守に対して。その机の前に立ったままで居た晶子は、そう言うだろうと予測出来ていたから全く黙っていた。
 届けられるまで、電送ならタイムラグはほぼ皆無と言って良いのだから。それを捨ててまで「郵送」という方法を選ぶ理由が、何か他にあったという事だ。
 それ、即ち。受け取る側にも、いずれ面倒。
「他に、誰が受け取ってそうだと思う?」
 上司のクリップボードを突き付けるように寄越してくるのを、秘書は素直に受け取って。

 この23世紀に、懐古趣味(レトロ)極まる封蝋。これまた、実に修辞的(レトリック)な文面。そのままご招待与(あずか)る以前から、その仰々しさに肩の凝りそうな。

「一番『招待客の多い』パターンだと、思われますが」
 つまり、軍の上層部総当たりに招待くれた上に、大量の政治家にもまた総当たり。ついでに、軍需部門を有する企業のトップ連中も、これまた大量…という意味だ。
「一番、鬱陶しいパターンだな」
 返されるクリップボードをまた受け取りながら、守がはっきりと溜息を吐く。
「断りますか?」
そんな秘書の問いにもまたもう一つ、今度は少しばかり軽くに息を吐いて。
「いや…一応、出席(で)る」
 面倒なだけで全く嬉しくも無い集まりだが、守にとっては「政治家連中と、顔を繋ぐ」というメリットがあった。
 今までのそれが功を奏して、しばらく前までは戸籍も無かった異星の女をしっかり「女房に出来た」訳だったし。成長速度の尋常じゃなかった娘が、何処かの男に本気で惚れるまでに「婚姻可能年齢の特例」を引っ手繰(たく)ってくる必要が、まだ残っているのだし。
「も~、帰って寝ちまおうかな~」
 朝っぱらから、やる気の半分以上も失くした参謀職に。仕事なさって下さい…と、容赦無い言葉を返した秘書である。

  ◇ ◇ ◇ ◇

 真田にも科学局「局長」という肩書きの在る以上、一応は「秘書」が存在(い)た。
「2日に一度は机の上を見て下さい…と、申しましたはずですが?」
 施錠(ロック)までしてはいなかったが、天照大神よろしく、研究室(ラボ)に閉じ籠(こも)っていた真田はそこから引き摺り出されて、仕方無く廊下を歩いていた。
 その長身の背中を押すように後ろを付いて歩いているのが、その秘書の山名だ。
「まだ、4日…」
「局長決裁が4日止まれば、末端の遅れは月単位になります」
 その能力の有無とレベルはともかく、決してデスクワークの好きではない真田である。
 机に向かっているのが苦手、という意味では無い。机の上に「判を突いてくれ」とばかりに、山積みにされる書類に興味が無いだけだ。これが製図机上の設計図だったなら、24時間眺めていても全く平気なのだが。
 こんな男が頂上に居て、科学局の業務の今まで停滞しなかったのは、その直下の事務能力の高さだったかも知れない。

 ようやく局長室まで辿り着き、まだ何やらぶつぶつと文句言っているらしい真田を、宥めるでも無く座らせて。最初の書類を取り上げたところで、ドアが開いた。
「ね~?山名さ…って、お義父さま居るし」
「…居て、悪かったな」
 サーシャがここに来るなり山名を呼ぼうとしたのは、この執務室(へや)に山名しか居ない方が当たり前だったし。同じ理由で、真田が居る方が普通では無いのだから、その言葉の後半も素直な感想を述べただけである。
「いらっしゃい、澪さん。私に何か?」
 どうやら研究室(あちら)に寄らず、ここに直接来たらしい。という事は、本当に自分に用のあって来たのだろう。そう判断したから、山名はそう問うた。
「うん。お義父さま宛に、手紙来てなかった?」
 そう言いながら、机の上の山を指差してもみて。
 こういう封筒で、こういう中身の…とサーシャが、言葉だけではなく身振り手振りにも説明すれば。ああ、それなら…と山名は、机の上の書類の山からあっさりとクリップボードを選り出した。
 この部屋の本来の主である真田は…と言えば、娘と秘書のそんな様子をただ眺めているだけだった。
「あ、そうそう。これ、これ」
「…って、何だ?」
 どうせ、自分に宛てられたはずのものだ。問うた声に振り向いたサーシャの手から、遠慮無くクリップボードを取り上げる。
「招待状?」
 一瞥して、それが何なのかと分かる程度には、こういうものの送り付けられてくる事は珍しい事では無い。興味も無ければ、時間を費やすに値するだけの有益も感じないから、ほぼ間違い無く断っているだけの事だ。
「これが、どう…」
「たまには手伝え、って。お父さまが」
 どうしたんだ…と問い返す言葉の終わる前に、クリップボードを指差しながらサーシャが答えた。
「何か、私がどう…とか言ってたわよ?」
どういう意味なのか、を真田がもう一度問うてみる前に、続く言葉も聞こえてきた。
「…それか」
 おそらくは何の説明もされないまま繰り返しているだけの、そんな曖昧に過ぎる伝言だけで、友人の思惑を正しく理解(さと)る真田も真田である。

  ◇ ◇ ◇ ◇

 普通に生活していると「手紙」なんて、まず受け取る事など無い。文章を送るというならば、メールという電気的な通信が日常に溢れているからである。
 流石に「荷物」までは電送ならないので、それに同梱されているメッセージカード辺りがせいぜい。
 だから、友人知人の「住所を知らない」なんて、至って普通の事。下手をすると、自身の住所までも忘れそうになるほど。
「…何で、僕に来るかな~。も~っ」
 しかし、相原の場合。最近、こういう「招待状」が何故だかしばしば。
 まあ…この手の封筒の舞い込むようになったのが、現在の奥さまとの婚約整った辺りから…なので、その理由も分かり過ぎるほど分かっていたりもするのだが。

「あら…やっぱり、来てましたのね」
 仕事の関係上、旦那さまに遅れての帰宅の当たり前な晶子が、テーブルの上の封筒に気付いて呟いた。
「…って、参謀に?」
「お祖父さまにも、届いたそうですわ」
 晶子の言う「お祖父さま」とは勿論、現在の司令長官の事である。
「あ~、も~っ」
 仕方無く「実質的に、まだ軍事政権」なのが、現在の地球連邦だ。
 従って、地球防衛軍の最高位ともなれば、政治的な発言力もかなり強大なもの。だからこそ、その周辺に色々な思惑持って「お近付きになりたい」と図る連中には事欠かない。
 なので…こういう類のものが、その孫娘の配偶者にまで送り付けられてもくる訳だ。
 特に、軍に属してる者たちが、そんな事を。相原も同じ「軍に所属している」のだから、こちらに与(くみ)しやすいだろう…などと考えてくれて。
 そーいうのは、余所でやってくれないかな。それが相原の思う正直なところだったが、現実はなかなか思い通りにはなってくれない。
「…で、やっぱり?」
 少しばかり遅い夕食を温め直して、台所から戻ってきた旦那さまが問えば。
「ええ。やっぱり、です」
通勤の荷物を置いて戻ってきた奥さまが、当然のように答えた。
「届いているなら『出て来い』と、言ってましたから」
 誰が…と言えば、晶子の上司である守だ。
 相原にその気やつもりが有るかどうかは、全く関係無い。勝手にそう取ってくれる者の掃いて捨てるほど居る以上、政治家連中に「話を持っていく役に立て」という事だ。
 どうして僕の名前で来た招待(はなし)なのに、僕に「断る権限」が無いんだろう…と。毎回思う事を、やっぱり今回もつくづく思う相原である。

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